第1問

 花街は狭い。聞くつもりがなくとも、
噂話は勝手に耳に入ってくる。
 その日も、猫猫は妙な噂話を耳にした。

 内容は、
"夜な夜な、どこからともなく
啜り泣く怨霊の声が聞こえる"
というものである。

(怨霊ねえ)

 猫猫は後宮にいた時、
似たような事件に巻き込まれたことを
思い出した。あれは確か、
「城壁の上で女の幽霊が踊っている」
という話だった。
 その時は壬氏に夢遊病について尋ねられ、
その正体を確かめるために
夜中の城壁まで連れ出された。
結局、幽霊の正体は生きた人間だった。

(今回も似たようなものだろう)

 そう聞き流すつもりであったが、
続きまで耳に入ってしまった。
断じて、好奇心に負けたわけではない。
 噂話の続きは、こうだった。

"呪いのような紋様が
街の中に現れた。
怨霊による呪いではないか"

(紋様が街中に、か)

 後宮の下女たちがいかにも好きそうな話題だが、
花街の者も大差ないらしい。
ただ、街中に現れたという紋様については
少し引っかかる。
とはいえ、怨霊も呪いも猫猫には関係がない。

(関わるのはやめておこう)

 その時は──そう思っていた。

***

 それから数日後、
薬屋に覆面の貴人が現れた。

「……なぜ、壬氏さまがここに?」
「ずいぶんな言い草だな」

(こいつ、暇なのか?)

「わざわざ花街までいらっしゃるとは、
よほどのことかと」
「用がなければ来てはいけないのか」
「そうは申しておりません」

 壬氏が直接持ち込む話など、
ろくなものではないだろう。

(まさか、あの噂話ではないだろうな)

「お前に見てもらいたいものがある」

 壬氏は懐から折り畳まれた紙を
取り出し、卓の上へ置いた。
 持ち込まれた話こそ──
そのまさかだった。

猫猫が目にした呪いの紋様。
クセは強いが、文字のようにも見える――
呪いの紋様に隠された二つの言葉を見つけ出そう

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第2問

──紋様が示した刻限。
猫猫は壬氏、高順とともに
貯蔵庫へ向かっていた。
戸口で、高順が猫猫を制する。

「小猫、ここは私が」

 すると、戸の向こうから
啜り泣きが聞こえてくる。
高順が戸を開けると、
積み上げられた荷の奥、
月明かりの下に、
一人の女が立っていた。
その傍らには、
使用人らしき者が静かに控えている。

(やはり怨霊などではない)

 女の肌は、ひどく荒れ、
乾いてくすんでいた。
猫猫が声をかけると女は顔を背け、
袖で頬を隠した。

(なるほど。肌を見られたくないのか)

「お二人は外でお待ちいただけますか」

 猫猫が女へ視線を向けると、
高順はすぐに意図を察したようだった。

「参りましょう」
「しかし──」

 壬氏は不満そうに眉を寄せたが、
高順に促され、渋々外へ出た。
 猫猫が事情を尋ねると、
女はぽつぽつと話し始めた。

 曰く、彼女は肌の変化を気にして、
人前に出られなくなったのだという。
しかも、夜ごと聞こえる泣き声は
怨霊の声と噂され、
それを耳にする度、
肌の調子はさらに悪くなっていった。
そうしてとうとう
誰にも会えなくなったのだそうだ。
 女は、誰かの目に留まることを願い、
街のいたるところに紋様を書き残すよう、
使用人に命じたのだという。

(まさか、あの紋様が
助けを求めるためのものだったとは)

「この肌は呪われているのです。
どうか、この呪いを解いては
いただけませんか」

 猫猫は女の肌を改めて観察する。
確かに荒れてはいるが、
怨霊の仕業などではないだろう。

「呪いかどうかは、
話を聞いてから判断します。
肌が荒れてから、何をしました?」

 すると、女は懐から
あるものを取り出した。

「すべてここに記してあります」

 それは日々の出来事が
記されている日記だった。
猫猫は日記の一頁目を開く。

(この中に、肌荒れの
本当の原因があるはずだ)

「彼女の日記を読み、肌が荒れ続けた本当の原因として、
最も適切なものを一つ選ぼう」

今朝、鏡を見ると頬がくすんでいた。昨夜までは気にならなかった。

いつもの手入れをして眠れば戻ると思ったけど、翌朝には濃くなっていた。

特別なことは何もしていない。

何かの呪い?

まさかね。

1

南の市で、肌に良い香油を買った。香りには邪気を払う力もあるらしい。

呪いも消えるかな。いつもより念入りに塗って休んだ。

翌朝、くすみはさらに濃くなっていた。肌に良いはずなのに。香油が合わない?

2

香油をやめ、肌荒れに効く薬草水に替えた。

朝から晩まで幾度も頬になじませた。

これで大丈夫。

それなのに、かさつきは昨日よりひどい。

やっぱり──いや、そんなわけない。考えたくない。

3

薬草水もやめた。

人に会うから、白粉塗って隠さなきゃ。帰りに魔除けの符をいただいた。

これで良くなるかな。

夜、白粉を落とすと肌はより荒れていた。香油でも薬草水でもない。

やっぱり呪い?

4

白粉は塗らない。

ひとつずつでは足りないのかも。香油と薬草水を何度も塗って、符も枕の下へ。

できることは全部した。

翌朝、鏡を見て息が止まった。今までで一番ひどい。

間違いない。これは呪いだ。

5

怖くて眠れない。

符を握り、灯りも消せぬまま朝を迎えた。何かを塗る気力もない。

恐る恐る鏡を覗く。肌は良くも悪くもなっていなかった。

昨日まで悪くなるばかりだったのに。

呪いも夜は眠るのかな。

6

熱が出て、一日中眠っていた。

香油も薬草水も白粉も使わず、符に祈ることも忘れた。

翌朝、頬が少し明るい。何もしなかったのに良くなった?

熱が呪いを焼いたのかな。

7

もう誰にも会いたくない。

部屋に閉じこもって日記を書く。良いと聞いたことはみんなした。

全部だめだった。

肌は荒れていく。もう分からない。

本当に呪いなら──誰か、この呪いを解いてほしい。

8
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第3問

「なるほど」

 猫猫は、日記をぱたりと閉じ、
壬氏と高順を招き入れる。

「何かわかったのか」
「結論から申し上げますと、
怨霊でも呪いでもありません」
「ではあの紋様は」
「あれは、誰かに気づいてもらうよう、
仕向けたものでした。後宮へは、
外からの荷に紛れて
入ったのでしょう」
「国を乱す企てではないのだな」
「はい。それより──」

 猫猫は女に向き直る。

「肌荒れですが、
原因は手入れかと」

 女は信じられないとばかりに、
猫猫を見つめた。

「悪化した日に共通しているのは、
肌が良くなると信じ手入れを
重ねたことです。
かえって肌を守る力を削いでしまい、
そこに疲れや寝不足が重なった」

(なんとも皮肉なことだ)

「どうすれば……」
「手入れをやめ、肌を擦らず
よく眠り、きちんと食べる。
それだけでも負担は減ります」
「元には戻らないのでしょうか」

(肌をうるおいで満たして
本来の力を取り戻すことができれば……)

(そういえば)

「美しさを保つ『黄金の秘薬』※……」

 白鈴が先日、
妙な話をしていたことを猫猫は思い出す。
 お客である異国の商人が
『ハラジュク』という土地に、
肌本来の美しさを呼び覚ます
『黄金の秘薬』※があると
話していたらしい。
 商人は手がかりだという紙を
残していった。それを、
白鈴からもらっていたのだ。
 猫猫は懐に忍ばせていた
紙を取り出す。

「それはなんだ?」

 壬氏が覗き込む。
猫猫はおやじの言葉を思い出す。

(憶測で物を言ってはいけない)

「まだ──なんとも。
『黄金の秘薬』※の手がかりだとしか」

 ふむ、と猫猫は顎に手を当てる。

「読めるか」
「これは……異国の文字ですね。
『ハラジュク』という土地も
関係しているようです。」

 『ハラジュク』という言葉を聞き、
女が顔を上げる。

「『ハラジュク』…?」

 女はそのまま、傍で控える
あなたに視線を向けた。

「私の使用人は、
異国の出身です。
『ハラジュク』という土地の話も
以前していたので、
何かお力になれることが
あるかもしれません。」

(それは都合がいい)

「これを読み解いていただけますか」

 異国の知識のあるあなたなら、
より正確に読み解けるだろう。
 あなたは紙に記された文字へと
目を落とした。

※本ストーリー上の表現は演出上のイメージです。
本製品は、医薬品・医薬部外品ではありません。

商人から受け取った異国のメモ。
異国の言葉が読めるあなたなら、解読できるはずだ。
異国の文字と記号で書かれた暗号を解いて、
黄金の秘薬※がある場所を見つけ出そう

異国のメモ
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